巻頭言
次の100年に向けて
聖路加国際大学
学長 堀内 成子(ほりうち・しげこ)
2019年2月5日、私の会議予定に看護教育100周年記念事業、記念誌 『聖路加の看護 100のエピソード』(仮)と記されていた。1年8ヶ月後の2020年10月24日予定の記念礼拝・式典・祝賀会に間に合うようにとその日が選ばれた。記念誌を共に作る仲間たちとの話し合いで、方針が決まった。①積み重ねてきた歴史と実績を、関係者の言葉で表現する。②聖路加の看護教育について、第三者の目線から語ることを通じて質を表す。③一般の方が読んで面白いと思えるエピソードを記す。④「人」の顔が見える内容・構成で、「看護師=白衣の天使」のイメージを超えて、大学や病院、「看護」に対する親しみを感しじてもらう——。集まった仲間たちの表情は輝いてみえた。私たちの誇る聖路加の100年を、多くの方々と一緒にふりかえり、次の100年を考える好機だからだ。
2019年5月16日、大学と聖路加同窓会が主催となって、原稿募集のお知らせを同窓生、聖路加(大学・病院)に勤務経験のある人、医療者・教職員、在校生に届けた。おかげさまで、多くの皆様より原稿を寄せていただいた。エピソードが教えてくれるのは、戦争時代の忘れられない記憶、寮や学び舎での思い出、忘れられない教員の言葉、品格ある振る舞いをみた瞬間、聖路加で過ごした時間が人生を彩っていたという発見、時が経ってからわかった事など。
1920年に聖路加国際病院附属高等看護婦学校としてスタートした本学は、2020年に看護教育100周年の節目を迎えた。特設ホームページには、看護教育100周年記念サイト:知と感性と愛のアート〜聖路加の看護、いま、そしてこれから〜と記されている。原点に立ち戻り、これからの100年を見据えた時間を持ちたい。そこで特設ホームページに次のように思いを寄せた。
病に苦しむ人の人生に寄り添う「看護」、その人らしい健康を創る「看護」、革新的アイデアの新しい「看護」を開拓実践する。そんな「看護」する人を育てたい。次の100年も、人々の求めるケアを、ひとりの幸せが周囲に広がっていく、豊かな時間を創りだす、そんな「看護」する人を育成します。聖路加国際大学は、「看護」する人を育成する学び舎であり続けます。これからも、人々の傍らにそっと寄り添う、忘れられない看護を。
記念すべき2020年が、新型コロナウィルスの世界的流行のために、すべての人々の暮らしや人生に変更を余儀なくさせ、保健医療従事者に大いなる挑戦を迫る年になるとは、誰が想像しただろうか。
100のエピソードを手にしてくださった皆様にとって、先の見えない疫病災害の時代を生きる標になればと心から願っている。聖路加の精神は、進取の気性をもつ人々のつながりを大切にしながら、“最善を尽くせ、しかも一流であれ”という創設者の言葉の実践者でありつづけることだ。実践者たる私たちをこれからも叱咤激励していただければ、これに勝る喜びはない。
Profile
1978年聖路加看護大学卒業。聖路加国際病院勤務ののち、東京大学大学院修士課程、聖路加看護大学大学院博士課程修了。1982年より聖路加看護大学教員。聖路加産科クリニック出向、看護学部長、看護学研究科長等。2020年4月より現職。